経済小説の醍醐味は、引き込まれていくような知の攻防の行方にあります。
その点で読者を引き込むワクワク感が溢れるのは、真山仁氏の「ハゲタカ」です。
バブル崩壊後の追い込まれた世相を巧みに描いた小説で、日本の追い込まれた状況を肌に感じる焦燥感が溢れたストーリーです。
主人公鷲津は、ある事件をきっかけに大手銀行を退職して、渡米後投資ファンドの代表に就任し帰国。
出典画像:
https://www.amazon.co.jp/新装版-ハゲタカ-上-講談社文庫-真山/dp/4062776529
彼が口にする「お金を稼ぐことはいけない事でしょうか?」は、当時の村上ファンドの代表の言葉を思い起こさせます。
外資の企業再生の裏にある儲かれば何でもするという姿勢に対する反発。
その反面、インサイダー取引を繰り返せば企業は時価総額を倍倍に増やしていけるというおごりが、検察の摘発を招くことになります。
鷲津はそんな不景気にあえぐ日本に帰ってきて、危機状態の企業を次々と買収していき、敵対する勢力を打ち破り次々と成果を上げていきます。
そして休業寸前の老舗旅館を背負うことになります。
鷲津は容赦なく、強引ともいえるような手法で企業を買収していき、その心のうちには復讐という人間臭い強い思いがあることがわかってきます。
正義をふりかざすわけではないその姿は、ある面ダークヒーローであり手腕のあざやかさに思わず感心してしまいます。
経済的にみれば、外資が再生してもらえるならいいことだと、楽観的に考えてしまいますが、利権がからむとそんな甘いものでは終わりません。
この小説が描く登場人物の取り巻く環境や行動は、日本経済の問題点をこれでもかと暴き出します。
日本的企業経営に対する鷲津の復讐・旧態依然の組織運営を叩き潰す知の攻防でもあります。
この小説の面白さは、ワクワク感のあるストーリーで、登場人物の繰り広げるどろどろした葛藤にあります。
経済の知識をわかっていくとともに、1人の男の復讐劇を見守ることになる読者は、ダークヒーローのテンポのよい動きに取り込まれていき自然に物語の中に引き込まれていきます。
経済小説には、話の展開がわかりやすく、この作品のようにテーマがはっきりとしていて、思わず読み進んでしまうという展開を予想するような要素が必要です。
この小説は、難しいストーリーではなく、人間臭い登場人物の動きを追うことできっと読む人をひきつけ思わず時間を忘れさせてくれることは間違いありません。
真山仁の小説の醍醐味がよくわかるワクワク感あふれる経済小説です。