経済小説でありながらミステリー性もある「株価暴落」

株価暴落池井戸潤作の「株価暴落」は犯罪に巻き込まれた巨大企業の株価に着目した経済小説です。

全国にチェーン展開をしている一風堂の目黒店の爆破事件から物語が始まります。

一風堂は売上2兆円の巨大企業ですが同時に1兆円もの有利子負債を抱える巨大企業です。

物語はそこの融資を打ち切るか否かの銀行内部の勢力闘争を描いてゆきます。

出典画像:
http://books.rakuten.co.jp/rb/4320351/

融資を打ち切ると傘下の子会社が倒産に追い込まれそこで働く社員は路頭に迷います。

それぞれに思惑や葛藤がありそこに連続爆破事件が絡んでいます。

一風堂の経営者風間は古い感覚の経営者で、経営改革を進言する財務部長などの進言を全く聞こうとしません。

メインバンクの白水銀行は以前から再生計画の練り直しを提案し債権放棄や金利減免、追加融資も併せて行っていましたが改革は遅々として進んでいませんでした。

その状況で起きた連続爆破事件が起こり死者も出ました。

案山子と名乗る犯人が犯行声明を出し一風堂がターゲットになったテロであることが判明し大変な事態に陥るわけです。

容疑者は二転三転し最後に判明しますが想像できない人物でした。

株価暴落の過程と企業内闘争、銀行の融資審査、そして事件の進展と悪い方へと転がり落ちる感じで一気に物語を読み進めてしまいました。

巨大企業の経営者が古い体質のワンマン経営をし続けることで、連鎖的に取引している中小企業が倒産する状況は大変切なく憤りを覚えました。

さらに銀行内部の腐敗を真正面から見せつけられました。

だれが考えてもおかしいということがまかり通り、既得権が幅を利かせ何かしようとすると抵抗が強く前に進めずがんじがらめになります。

少し胸がすく終わり方で読後感は良かったものの銀行という組織について知り得なかったどろどろとした古い体質に嫌気がさします。

この作品を通じて経済がうまく回る方向で銀行融資が行われ株価も安定してくれればよいと思いますが、既得権者はどこの世でも幅を利かせるのが常ですから少しあきらめの気分にもなります。

物語の最後まで犯人やその動機のこと、追加融資はあるのか、主人公の未来はどうなるのかなど手に汗握る展開で一気に読み上げました。

特に後半の畳みかけるような物語の進展は池井戸作品らしい展開で大変楽しませてもらいました。

株価は一方向に進みだすと止まらないというダウ理論を地で行くような内容です。

企業の業績やそれを取り巻く環境も同様に悪化する様は緊張感や臨場感を生みます。

経済小説に興味がある方もない方も一気に引き込まれる小説だと思います。